【スレ45】水族館の飼育係
911 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 20:16:04 ID:BxKEBxLb
皆様、ご無沙汰しております、水族館の中の人です。
PCがあぼーんしてしまい、書き込めませんでした。
ここしばらく、小学校の団体様から何を食べているのかというご質問を、
ほぼ毎日いただいておりましたので、
今回はエサについてざっと書いてみようと思いました。
給餌は飼育の基本です。
簡単そうに見えますが、生物種それぞれにあったやり方が必要で、
ちょっとした手抜きや手違いで拒食になったり、肥満になったりと、
なかなか難しいものです。
何をあげているかというと、
海棲生物には海産物(魚肉、エビ、オキアミ、貝類等)、
淡水性生物には淡水由来(ワカサギ、テナガエビ、アカムシ等)の
水産物です。
魚肉の中にはビタミンを破壊する酵素を持っているものがあり、
それ単食にするといきなり死ぬことがあるため、
キュウリウオ科の魚やキンギョなどは避けます。
自然界ではエサになる直前までそれ自体がえさを食べていますので、
腹の中に植物性のエサや、
ビタミンを充分含んだエサを抱えたままエサになるため、
問題にはなりません。
また、冷凍によりビタミンが失われたりしますので、
エサにビタミン剤を混ぜ込んだりもします。
912 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 20:17:42 ID:BxKEBxLb
特に海産の生物では、不飽和脂肪酸(DHAやEPA)が欠かせません。
これが不足していると、いくら食べても肉が適性につかなかったり、
骨格に異常が出てしまいます。
入手の容易さと栄養の生物とをよく考えて、
どのような餌料を使うか決定します。
養殖用の配合餌料は、栄養バランスやコスト面から便利なのですが、
基本的に開放海水面で使用するもののため、
量を間違うと濾過槽に負担が掛かりすぎるので、注意が必要です。
なにせ、粒状ではありますが、基本的に粉末なので、
濾過槽がすぐに目詰まりします。
植物食性の生物には、水草や海藻がベストではありますが、
入手の安定性からコマツナを主に使用しています。
これらの生物は魚肉だけではいくら食べさせても、
適正な体形にはなりませんし、短命に終わってしまいます。
遊泳性のカロリー消費の高い生物には、
一日2~3回、高カロリー高脂質の餌料を与えて痩せを防ぎ、
底性の動かないカロリー消費の少ない生物には、
低脂質の餌料を週に2~3回与えて肥満を防ぎます。
体形が崩れてしまうと展示に適さなくなりますので、
体形維持には特に注意を払っています。
913 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 20:19:28 ID:BxKEBxLb
水槽にエサを入れるときも、
高速遊泳魚であれば水槽の中心に落ちるようにしないと、
エサを採った勢いで壁やアクリルに衝突したりして死ぬこともあります。
漫然と真ん中に投げても、水流で端に寄ったりしますので、
水槽ひとつひとつの特性を把握していないと、
エサをやったがために死なせるということになってしまいます。
イソギンチャク等の固着性の生物や、あまり動かない魚、エビ、カニ等には、
給餌棒の先にエサを付け、目の前に差し出したり、直接持たせてやります。
しかし、これで驚かすと拒食になってしまうこともあります。
生物によっては○○しか食べない、という種もいますので、
その種に合わせたエサを調達するのも重要な仕事になっています。
例えば、クラゲの中にはクラゲしか食べない種がいますので、
エサ用にクラゲを育てます。
また、チョウチョウウオの中には、サンゴしか食べない種がいます。
ところがサンゴは入手自体が困難、繁殖も困難、
CITESにも載るような絶滅の恐れのある生物ですので、
おいそれとはエサに使えません。
そこでイソギンチャクを増やしたり、
飾りサンゴに魚肉ミンチをゼラチンで固めたりして、
擬似サンゴを作ったりもしています。
914 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 20:20:40 ID:BxKEBxLb
動いているものに反応する魚、カエル、サンショウウオも
目の前にエサをチラつかせて、生きているもののように見せてやります。
イカも動くものにしか反応しないのですが、
大量に飼育している一個体ずつに差し餌では、
時間がいくらあっても足りません。
水流を工夫し、エサが水中を長時間舞うようにしたり、
水切りのように投げて沈むのが遅くなるようにしています
(それでも午前午後それぞれに一時間以上掛かりますが)。
活魚や活エビ等の活餌はこのような生物にはとても有効なのですが、
寄生虫の持ち込みと維持の手間、
維持するうちに栄養価が低下するという欠点がありますので、
極力こちらの用意するエサに餌付けるようにしています。
餌付けとは、水族館では、
自然界とは違うこちらが用意するエサに慣らす事を言います。
餌付いた生物に、日常のエサをあげることは給餌といい、
区別しています。
何かご質問がございましたら、答えられる範囲で答えます。
916 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 20:51:05 ID:KtShb+LN
普通に面白いwww
子供と一緒にレス見ます。
病気が発生した時は、専用水槽とかあるんですか?
917 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 21:08:00 ID:hZefXHar
肥満しちゃった魚なんかは
やっぱりダイエットさせるんですか?
918 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 21:23:30 ID:PaUoihzg
目の前に海があっても、自然の海は汚れているから
他から海水を持ってくるというのは本当ですか?
920 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 23:35:22 ID:BxKEBxLb
水族館の中の人です。
レスありがとうございます。
寝る前にお答えしますね。
体形が崩れてしまっては、展示が成立しませんし、
極端な痩せや肥満はすぐ死に繋がります。
展示が成立しないというのは
水族館は「生きた図鑑」ですから、
自然界と異なる体形を見せるということは、
間違った知識を伝えるということになり、絶対に避けたいところです。
腹がへこむ程度の痩せは治せますが、
背肉がへこんでしまったものは、まず治りません。
肥満の場合には、程度にもよりますが、
エサをイカ中心にして脂質をカットします。
イカは水分が約87%、たんぱく質が約12%と脂質がない上に、
タウリンの含有量が多いためコレステロールの排出にも役立ちます。
病気の治療ともかぶるのですが、
取り上げられる生物であれば、バックヤードの治療用の水槽に移します。
展示水槽は、魚類だけでなく無脊椎動物も混合展示していることが多く、
ほとんどの治療薬は無脊椎動物に有害なため使用することができません。
このため、治療は別水槽で行うことがほとんどです。
ただ、無脊椎が収容されていない、
取り上げが生物に極端な負担になるような場合は、
展示水槽でそのまま治療することもあります
(水の色がまっ黄色になっていたら、
エルバージュという抗菌剤を使っているということです)。
921 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 23:39:47 ID:BxKEBxLb
海辺にあって、目の前から水を取っていない水族館も多々ありますが、
ほとんどの場合は河口に立地している、または河口が近くにあり、
淡水の影響が強いためです。
工業港が近ければ、水質の問題もあると思います。
例えば葛西は江戸川の河口ですので、
大島(小笠原?)から船で水を運んでいます。
基本的にはすぐ近くから水を揚げているところがほとんどですが、
あまり近くで水深が浅いと大潮と台風が重なったときなどに
取水口が露出し、ポンプが空転して壊れたりしてしまいますので、
ある程度沖合いに取水口を作るところが多いです。
この他、磯場だと
アワビやウニの漁場を管理する組合との兼ね合いもありますし、
砂浜だと砂を吸い込みやすいので
取水口を海底から数m立ち上げたりすることもあります。
取水口のメンテナンスの頻度費用がかさむようであれば、
離れた場所からトラックや船で水を運ばなくてはならないこともあります。
ウチも二ヶ所から引いていますが、
片方は5km程離れた外洋に面した磯場からパイプラインで、
片方は目の前の港内から水を揚げています。
とりあえず今のところ、
目の前の水でも問題なく生物は飼育できていますが、
将来近くに工場が増えたり、埋め立てや離岸堤が増えるようなことがあれば、
港内の水の流れが沈滞して目の前の水は使えなくなると思います
(それを予期して離れた場所からパイプラインを引きました)。
パイプラインが長くなると、長年使用しているうちに
ムール貝やフジツボがパイプの中に取り付き、水の流れが悪くなったり、
ひどいときには完全に詰まってしまうことがあります。
定期的にピグというミサイルのようなものをパイプの中に通し、
付着生物を除去する作業も必要です。
明日は500km程離れたところまで採集に行ってきます。
おやすみなさい。
922 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/17(木) 23:49:00 ID:I+nbVQB9
えさやりって、水槽の上から柄杓で、
ばさっばさって投げ入れてるイメージでした。
水族館の魚もミスユニバース並みに、
見た目を管理されてるのですね。
924 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/18(金) 00:34:35 ID:ApMhLaZQ
水の事まで考えたことなかったなぁ
すごく勉強になります
926 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/18(金) 01:01:10 ID:uu1z7Pw8
水族館の中の人、乙です。
餌からの体型管理とか水質維持とか、
今回の話もすごく大変そうだけど
知らない世界のことだけに面白かったです。
そうかー、水族館の中で悠々と泳いでいる魚は
「生きた図鑑」ですよね、確かに。
生きて泳いでいるから色々な場面も見られるけど、
だからこそ健康で適正な状態を維持しなければいけないのですね。
また何かありましたら色々と教えて下さい。
927 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/18(金) 01:11:42 ID:6fmHoYS3
ていうか、魚はどっから仕入れるのか聞きたい。
イルカとかね。
魚市場で死んだ魚買うのとは訳が違うし。
24 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/21(月) 19:24:30 ID:5PUOwi/q
水族館の中の人です。
前スレで生物の入手についてご質問をいただいておりましたので、
それにお答えします。
通常、水族館で生物の収集は、
だいたい以下の方法に拠っています。
・採集
自力で生き物を集めることです。
水族館職員自らが、フィールドに出て行います。
この際に見たものが展示のディスプレイにフィードバックされています。
いずれの場合も、地元漁協の承諾と自治体の特別採捕許可が必要です。
採集の目的、採集する生物の種類、数量、採集の方法、
関わる人間の住所氏名、連絡先等を、
採集するエリア(河川、湖沼、磯場、港等)ごとに
細かく書類を揃えなければなりません。
採集の方法は、手網、投網、トラップ、釣り、潜水といろいろです。
漁船に便乗して、水揚げしない生物を採らせていただくこともあります。
この際には、ビールやらお茶缶やらで、お礼に代えさせていただいています。
・購入
漁業権の問題や採集方法によっては、自力で行うには無理があるものは、
漁師さんから購入という場合も、多々あります。
ほとんどの場合は漁船に便乗し、漁場でより分けさせていただきます。
値段は、その日の競値の最高額であったり、
値のつかないものも高いものもすべて○○円と決めていたり、
乗船(チャーター)料として○○円と、いろいろです。
支払いもその場で現金、振込み、漁協に支払いとケースバイケースです。
ただ、船が小さかったり、漁労が長時間である場合は、
予め時間や生物の数量を打ち合わせの上、我々が漁港で待っています。
魚市場で活魚として並んでいるものを、
仲買に競り落としてもらったりして買うこともあります。
私はイルカ収集の経験はありませんが、
聞くところによると基本的にイルカ漁に同行し、
漁獲の際に水族館用の個体を別に取り上げてもらそうです。
この他、外国産の生物であれば、
熱帯魚屋さんから購入したりもあります。
・交換
他の水族館と、それぞれの地で採れているものを、
お互いの価値がすりあう数量で交換しています。
25 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/21(月) 19:26:10 ID:5PUOwi/q
生物の運搬は、大量であれば活魚車で、
少量であれば宅配便を使います。
活魚車での運搬は、中で食い合い起こらないように、
セパレーターで仕切ったり、籠に小型のものは収容したり、
傷つきやすい生物はビニール袋に酸素パックしたりします。
宅配の場合は、ビニール袋に酸素パックの上、
発泡スチロールの箱に収容し、保冷剤や簡易カイロを同封し、
温度が急変しないようにします。
生物種、酸素の量などにも拠りますが、
中一日の配送までは大丈夫です。
26 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/21(月) 19:27:44 ID:5PUOwi/q
魚類であればほとんど酸素パックしますが、
クラゲ等の体の柔らかい生物は
水面の揺れで壊れたり、気泡が体に入り込んだりして死んでしまうので、
ビニール袋の中の空気を全て抜いて水だけでパッキングしています。
サンゴ等は
枝が折れやすかったり、何かに触れていると腐ったりしますので、
土台になる岩の部分に発泡スチロールなどの浮きを縛りつけ、
逆さにした状態でビニールに入れて酸素パックします。
ヒトデ類は
長時間同じ水に入っているとサポニンを分泌して自滅してしまうので、
海水で湿らせた新聞紙ではさみ、水は入れずに酸素パックし、
死ぬぎりぎりの水温まで冷やして送ります。
ナマコ類は
水を切れないので、無事到着するかどうかは博打ですね。
小さなエビ類は、
ビニールの中に小石や台所の水きりネット等を入れ、
捕まる場所を作ってやったりしないと、
揺られすぎで死んでしまう種類もあります。
採集に出た場合は、採ってすぐ運びますので、
活魚タンクの中でさっきまで食べていたものを吐いたりして水を汚しますので、
時折水を代えたり、活性炭を入れたりします
(濾過槽は付いていますが、物理濾過だけで生物濾過は期待できません)。
パッキングであっても同様ですが、
活性炭はpHの急変が怖いので、水替えで対処します
(活魚タンクに比べ水量が少ないので)。
水族館同士の交換であれば、
数日前から餌止めして、吐き戻しを防止しています。
29 名前:おさかなくわえた名無しさん 2009/09/21(月) 22:08:20 ID:3Sxb8IHh
そういや宅配便の仕分けバイトしてた時に
錦鯉が送られてきてビックリした事があったなぁ
なんかあった時に大変だっていうんで
あわてて飛び出してきた所長と主任が二人がかりで丁寧に運んでたけど