【スレ15】水族館の飼育係
356 名前:60 2006/06/29(木) 04:25:12 ID:gNU6ZsBU
以前船酔い地獄について書いた水族館の中の人です
さっき帰ってきたのですが、
スルメイカの採集に行ってきました。
夕方出航して、0時くらいまで釣り採集しました。
船上でのイカの様子など、携帯の画像ですが撮ってきたのでupしてみました。
イカが光による性質を利用して、
日没後船上に強力なライトを焚いてイカをおびき寄せて釣るのですが、
光に釣られてトビウオやイワシなど、いろいろな魚も集まってきます。
トビウオは水面直下にいますので、これも網で採集しました。
357 名前:60 2006/06/29(木) 04:25:39 ID:gNU6ZsBU
画像です。
http://meranaster.cool.ne.jp/sc/1.jpg
生物を収容するためのフィッシュプールを船上に置かせてもらいます。
後で外海に出たら新鮮海水をかけ流しにします。
http://meranaster.cool.ne.jp/sc/2.jpg
出航です。
夕日が落ちる前に出ますが、漁場に着く頃には日は沈んでいます。
http://meranaster.cool.ne.jp/sc/3.jpg
直前まで雨が降っていたのですが、幸い採集時には晴れてくれました。
http://meranaster.cool.ne.jp/sc/4.jpg
このライトのおかげで船上は昼間のような明るさです。
http://meranaster.cool.ne.jp/sc/7.jpg
釣ったイカには手を触れないようにして、このプールに収容します。
http://meranaster.cool.ne.jp/sc/8.jpg
興奮しているせいか色素胞が広がり、
全体に茶色になっていますが、落ち着くと透明になります。
http://meranaster.cool.ne.jp/sc/sf.3g2
フィッシュプール内のイカとトビウオの様子です。
携帯のムービーなので、あまり良い画像ではありません
(3MBくらいありますので開くのに少し時間がかかるかもしれません)。
18:30に出航、19:30から0:00まで釣り、
スルメイカ55個体(おまけのトビウオ20個体)採集し、
1:00帰港し活魚トラックにイカを積み込み、2:00に水族館に戻りました。
それから水槽に移し、家の帰ったのは3:30過ぎでした。
今回はベタ凪で船酔いになることもなく
比較的楽な採集だったんですが、数時間後にはもう仕事ですorz
358 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 07:58:30 ID:4aBp2GQt
乙です。
トビウオもイカもプールでは結構大人しいんですね。
よかったら展示に移るまでの流れも教えてください。
359 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 08:02:20 ID:CMsfKveu
イカを見て「うまそう・・・」と思った俺は水族館職員にはなれないな
361 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 09:07:00 ID:3vyH4wxH
たくさん採集できた場合は、
イカの1、2杯、トビウオの2、3匹は刺身にして
「お疲れさん」なんてやることもあるんですか?
370 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 18:26:04 ID:y9fgjBNm
水族館にいくと、かならず「おいしそう」という台詞がでてくるよなw
水族館の人って、リアル「ともだちなのに、おいしそう」になりそう。
371 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 19:49:01 ID:R4DLYh3W
>357
水族館の中の人に質問です。
どうしてフィッシュプールは縦縞模様なんですか?
372 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 20:29:38 ID:7cFijbxc
なんで釣ったイカには手を触れたらいけないの?
375 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 20:48:28 ID:jbKHv68u
>>372
・粘膜が傷つく
・手に付いてる細菌が移る
・イカがストレスを感じる
・そのまま齧りたくなる
377 名前:60 2006/06/29(木) 21:17:23 ID:gNU6ZsBU
>>358
撮影時、船上のライトが点いていたときはおとなしかったのですが、
船が移動する際にライトを消していたときは、
揺れに敏感に反応して暴れていました。
フィッシュプールはキャンバス地なので、
それほどひどく傷はつかないのですが、
あまり激しくぶつかればそれなりに傷ついてしまいます。
これを防ぐために移動中は職員がつきっきりで、
懐中電灯で水槽内を照らしていました
(同時に揺れでプールがゆがんで水があふれないように押さえたり)。
展示までの流れですが、脊椎動物と無脊椎動物では少し違いがあります。
基本的に自然界から採集した生物は、
すぐに展示水槽に入れず予備水槽で検疫をしています。
脊椎動物であれば薬品で寄生虫や病原菌などを叩くのですが、
無脊椎動物は薬品に対して非常に弱く、
寄生虫もろともあぼーんしてしまいます。
このため、ある程度のことには目をつぶって展示水槽に入れることがあります。
イカ類も薬品は使えませんので、
昨夜展示水槽に直接搬入し、今日から展示しています。
トビウオくんたちは、まだ餌付いてもいませんし、
網ですくったため体表に傷もついていますので、
駆虫を兼ねて予備水槽で薬欲中です。
しばらく落ち着かせて、こちらが上げるエサを食べるようになってから、
デビューの予定です。
今までにやったことのない生物であれば、エサは何がいいのか、
水流の向きや強さ、一番安定する水温、
どの展示水槽なら飼育できるか(水槽の形状)、
隠れたがる生物であればどうすれば見やすくなるかなど、
予備水槽でいろいろな実験をしてから展示することもあり、
展示が実現するまでに数年かかることもあります
(採集時期が限られている生物などは
一度失敗すれば次の年まで何も出来ませんので)。
今回は残念ながら釣れた数が少なく、刺身になるイカはいなかったのですが、
ほとんどの採集ではおみやげがついてくることもあります。
(水族館の調餌場でさばいて事務所でみんなで食べちゃいます)。
漁船に乗ったときなどは、
漁師さんがご好意で食用に分けてくれることもあります。
379 名前:60 2006/06/29(木) 21:43:44 ID:gNU6ZsBU
水族館で魚や食用になる生物を見たとき、
「おいしそう」という感想を漏らすのは日本人だけだそうです。
これは日本人の食文化において海産物が
大変重要な位置を占めているということを照明しているものだと思っています。
展示生物が「おいしそう」に見えるのは、
その個体が健康である証拠であるとも考えていますので、
私たちにとって「おいしそう」はほめ言葉でもあります。
長いこと水槽で飼っていると、自然界とはえさが違ってくることが多いので
体型や色が微妙(じゃ済まないこともあり)に変わったりしますので、
リアル「ともだちなのに、おいしそう」は目標ですね。
フッイシュプールの中の縞模様は、
イカが壁面を認識できるようにするためのものです。
これがないとプール内の距離感が掴めず、壁面に当たりまくってしまいます。
イカに限らず、外洋性の高速遊泳魚を運搬するプールやタンクには、
縞模様を書いていることが多いですね。
これらの生物は、生活の場が壁面などない茫漠たる大洋ですから、
「モノにぶつかる」ということが感覚として認識できないようです。
そのために障害物があることをはっきりと認識させるために、
コントラストがはっきりした模様を描いています。
イカに手を触れない理由ですが、
375さんが描いているのでだいたい正解(特に4番)ですが、
それ以外にもいくつか理由があります。
「粘膜が傷つく」と「手に付いている細菌が移る」
を合わせたようなものなのですが、
手の脂が付いたところから炎症を起こし、そこから細菌感染を起してしまいます。
変温動物は海水と体温が同じなわけですが
(マグロ類、一部のサメなどの例外はありますが)、
30℃以上になることは余りありません。
私たちの体温は36~37℃、昨夜の水温は18℃で約20℃近い違いがあります。
私たちに置き換えてみれば、36+20℃で、
56℃の蒸しタオルで包まれるようなものです
(56℃の風呂に入るというイメージでもいいです)。
まちがいなく熱すぎで、下手をすれば火傷のレベルですよね。
今回の採集では目標の半分しか集まりませんでした。
次は100個体採集を目指し、
醤油の一斗樽も持って行こうと思っています(10杯くらい沖漬け)。
383 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 22:37:44 ID:bVmrOeRz
ワシ魚河岸で活魚扱ってたんだけど
>>357に質問なんだけど
スルメって水槽に入れとくとすぐ咬み合ったり墨吐いたりして皆死んじゃうけど
巧く扱うのは、何に注意したらいいの?
何でか判らんけどヤリイカは元気なんだけどね
384 名前:60 2006/06/29(木) 23:20:50 ID:gNU6ZsBU
>>383さん
不思議とヤリイカっておとなしいですよね。
今回、スルメについてはかなり獰猛
(ヤリイカに比べて共食いが多い)<墨を吐きやすい、
体表が弱いという情報をもらっていました。
イカの墨は粘性が高く、呼吸の際に吸い込むと
鰓が詰まり窒息してしまうことが多々あります。
釣り上げた直後バケツに収容し、
この中で墨を吐かせた後フィッシュプールに移しました。
それでもプールの中で吐く個体が出ましたので、
墨の塊はバケツですくい注水量を増やして対応しました。
展示水槽は80tで、毎時約4tの新鮮海水を注水し、
毎時80tのろ過循環で対応していますので、
この水槽内での吐墨による鰓が詰まっての窒息は起きていません。
ストック水槽に入れる前に、
活魚車からバケツで移し(カゴをご使用かと思います)、
この中で一度吐かせ、ダイライトなどに一時収容し、
吐かない個体をカゴでストック水槽に移してはいかがでしょうか
(手間がかかってしまいますが)。
また、光刺激にも敏感に反応します
(いきなり真っ暗になったり、真っ暗からいきなり明るくなる)ので、
夜間も照明は点灯したままです。
人通りにも反応しますので、通路の照明も暗くし、水槽照明もあまり照度は上げない
(水槽内の間接光で通路の人が見えないように)しています。
水族館であれば生物を生かすためご理解をということも出来ますが、
販売のディスプレイとしては不向きですよね。
水槽内の照度を通路より上げ、
ガラスにマジックミラーを貼るという方法もあります。
385 名前:60 2006/06/29(木) 23:20:59 ID:gNU6ZsBU
咬み合いについては、ヤリイカよりスルメイカの方が
共食いをしやすい(アオリイカほどではないにせよ)と聞いたことがあります。
常時満腹状態にして防ぐしかないかもしれません
(マメアジサイズの活魚と同居)。
ヤリイカを飼育していたときは咬み合いと墨の心配をしたことはないのですが、
スルメイカに切り替えた後は、この点をかなり心配しています。
販売サイズだと性成熟していることも考えられますので、
水槽内でも交接していると思います。
交接してしまうとオスは力尽き、メスも産卵後死んでしまいますので、
歩留まりは極端に悪くなりますよね。
わたしもスルメは初挑戦なので、何か他にも情報があれば教えてください。
こちらでも解決策が判ればお知らせします。
386 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/29(木) 23:36:02 ID:6UY1oyUY
>>60さん
今までで一番飼育に苦労した生き物はなんですか?
なんとなくクラゲは大変そうだと思う。
387 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/30(金) 00:26:23 ID:tMBdLzpy
>>385
安易に聞いてしまった自分が恥ずかしくなる程、丁寧なレスありがとう
言いずらいんだけど…
実際には難しく単価の安いスルメより
ヤリイカのほうが値段も高く見掛けも立派なので
業界で活スルメをやる事は殆んど無い
ただヤリイカに比べてあまりにも弱いので疑問に思ってた
水槽に入れる前に墨を吐かせるというのは考えもしなかった…
質問する前によく考えてからにします
スマソ
あ・それから活魚扱ってた自分が言うのも何だけど…
食べるのはシメテ一日置いた魚の方が美味いと思う
399 名前:おさかなくわえた名無しさん 2006/06/30(金) 22:51:13 ID:omeoClID
イカに関しては我が故郷青森の水族館で、
イカの世界最長飼育記録を塗り替えたとかいう記事を
かなーり前の「暮らしの手帳」で見た記憶があります。
確か49だったかな?今はどうなんだろう。
400 名前:60 2006/06/30(金) 23:11:32 ID:itHikxil
>>386
そうですねぇ、個人的なことでよければ。
偶然の一致ですが、一番苦労したのはクラゲです
(10年以上の付き合いになるとは)。
クラゲを始めた当時、日本でクラゲ飼育の実績があるのは江ノ島水族館くらいで、
知り合いもいないし飼育方法を聞きたくても聞けない。
当時在籍していた水族館ではクラゲなんか飼う気もなかった。
ということで、何も判らないところからスタートしました。
泳ぎだしたばかりの小さなクラゲをどうやって飼ったいいか判らず、
ろ過循環つきの水槽に入れてしまい一晩で
きれいさっぱりクラゲ自体がろ過されちゃったこともあります。
自分のキャリアに従って苦労する生物は替わってきますけど、
寝ても覚めてもそのことだけを考え続けたのはクラゲでした
(今でもどうすれば野生のクラゲと同じ大きさ、
プロポーションに出来るか考え続けています)。
これは私個人のことですので、他の飼育員だったら外洋性のサメであったり、
カツオやマグロ、サンゴ、特定の生物の繁殖だったりと、いろいろだと思います。
若いうち(私はまだ若いと思っていますが)に苦労した生物が、
その人の専門分野になっていくことが多いですね。
イカもあらゆる意味で苦労させられています。
寿命が一年と短いため、展示に適したサイズになると
寿命の半分以上は過ぎているとか、そのために収集のサイクルが短く
人員の手配や予算管理の面でも気苦労させられることも多々あります。
でもそれだけにやりがいも大きく、イカ飼育最長記録の更新も狙っていますよ。
401 名前:60 2006/06/30(金) 23:11:53 ID:itHikxil
>>387
私の知る限り、スルメの活を扱っているのは、
北海道に一軒、関東で一軒です(それもヤリが獲れない時期)。
関西ではスルメよりケンサキが多いのでしょうか?
プロからのご質問はかなり緊張しますね。
それ以外の方からのご質問も、
我々が当たり前だと思っていることを鋭く突いてくることも多く、
こちらの不勉強を思い知らされるのですが。
今までで一番答えに詰まったのが
「魚はどうして泳いでいるんですか?」でした。
(クリスマスイベントでサンタの衣装を着ていたときに
「僕の家にもプレゼント持って来てくれるよね」
と小さな子に聞かれたときも、別の意味で答えに詰まりましたが。)
>食べるのはシメテ一日置いた魚の方が美味いと思う
館の冷蔵庫の余裕がないのでさっさと食べちゃうことが多いのですが、
知ってるヤツはしっかり別の冷蔵庫に戦利品を隠していることもあります
(見つけ出したら先に食っちゃいますけどw)。
乗船採集の後はそこここで様々な戦いが繰り広げられます。