【スレ49】論文博士
32 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:12:17 ID:v+bTUJfk
論文博士(ろんぶんはかせ)ってあまり知られていないんじゃないか
という気が勝手にするので、書いてみよう。
おそらく博士号というと世間一般では、
大学院に行って研究をしその成果を博士論文にまとめ、
教授会の認可を得てとるものという認識かと思う。
そうやってとる博士号は課程博士という。
(文章の中で「論文博士」と「博士論文」が出てくるが、別のもの。)
自分もじつは論文博士になる前はそういう認識だった。
いや、正直言うとそこまでの知識すらなく、
博士っていうのは国家資格だと思っていた。
末は博士か大臣かという成句から誤解していたらしい。
実際は上記の如く、各大学が認定し発行するものなので
当然、東大の博士と地方医大の博士では重みがぜんぜん違う。
まあそれはおいといて・・・
論文博士というのは
要は大学院にいかずに、論文だけで博士になる方法。
確認はしていないが、医学部以外では少ないんじゃないかと思う。
医学博士は、論文博士>>>課程博士という感じ。
もちろんグレードとしては論文博士<<<課程博士。
博士号をとると文部科学省に登録されるが、
課程博士は登録番号の前に「甲」がつき、論文博士だと「乙」がつく。
もちろん「おつかれさま」という意味ではない。
33 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:14:56 ID:v+bTUJfk
小泉改革の前は、医者は卒後そのまま出身大学の医局に入り、
数年間臨床と研究をする人が多かった。自分もそんな一人。
大学にそのまま残る人(基本的に優秀あるいは研究好き)もいるが、
大半は大学を出てどっかの病院に就職する。
自分は卒後大学に6年いて、その後地方の総合病院に行った。
そこで2-3年勤務したころ、突然、大学の医局長から電話が来た。
「教授がお前に博士論文書かせてやると言っている。
あす午後3時に教授室にこい。院長にはもう話してある」
とのこと。
ちなみにその「明日」というのは全くの平日。外来当番の曜日。
面喰ったが医局長に、ましてや教授の意向に逆らうわけにはいかない。
院長はおなじ医局の大先輩で、教授よりも年上(ポストとしては教授より下)。
さっそく院長室に赴くと「行ってこい」ということだったので
外来の代診を同僚に頼み、次の日スーツ着て
(スーツは教授と会うときと、学会発表と結婚式以外では着ない)
出かけた。
まずは医局長室に出向く。
「おう、来たか。ごくろうさん。外来(担当日)だったんだって。
教授が今日しか空いていないって言うからさ」
といわれ、3時まで十数分あったのでお茶。
「どう、いそがしい?」などと世間話。
そして一緒に教授室へ。
秘書室でしばし待たされた後で
教授「あ、おまえ今のところ行って何年目?ああそう。
そろそろ論文書け。細かいことは医局長にな」
で終わりだった。30秒もかかっていない。
一時間かけて交通費かけてきたのに・・orz
34 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:16:58 ID:v+bTUJfk
医局長室に戻り、論文のテーマ(大学にいたころにやってた事)、
提出予定学会誌、参考文献一覧を渡された。
さすがにこのころは論文博士の存在は知っていたが、
博士論文というのはなにも特別な論文ではなく、
普通の学会誌の論文でいいことをこの時初めて知った。
で、参考文献をコピーすべく大学の図書館に行ったのだが、
量が多いのと前と図書館のシステムが変わっているのとで、
閉館の時間になっても半分も集まらなかった。
結局その後二回、診療を早めに切り上げ一時間かけ、
大学図書館→閉館まで悪戦苦闘→一時間かけて帰る
をくりかえした。
話が前後するが、
博士の審査を受けるにはひとつだけクリアすべき条件がある。
大学院は条件でないのは前に書いたとおりだが、
語学試験というのを受けて合格しなければならない。
これは大学病院から出る時に、半強制的に受けさせられた。
二科目受けねばならず、
英語+ドイツ語か英語+フランス語のパターンがほとんど。
3ヶ国語とも一応大学生のとき単位を取っているが、
英語はともかく仏語、独語なんてさっぱりわからない。
わからなくても教養科目では落第させないという不文律があるようで
ほとんどの学生はわからないまま卒業する。(東大とかは違うかもしれん)
ちなみに大学では1,2年が語学や数学などの教養科目
(いま考えると不思議な気がするが
日本の大学なのに、英、独、仏があっても国語の授業はなかった)、
3,4年が薬学や解剖学などの基礎医学、
5,6年が内科、外科などの臨床医学だった。
まあそういうお寒い状況なので、
「そんなの絶対受かるわけない」
と言ったのだが、
「白紙で出さない限り大丈夫。なんか書いてこい」
といわれ半信半疑で受けた。(英語+ドイツ語)
35 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:18:02 ID:v+bTUJfk
ドイツ語の試験は20行ほどのドイツ語文のあらすじを日本語で書け、
というものだったが何書いてあるのか全く不明。
いちおう埋めなければならないので、
「ドイツの医学は素晴らしい」とかなんとか適当に書いた。
後で聞くと湖とか森とかに関する詩であったらしい。
でも合格だった。なんだったんだろうあの試験。
さて、話をもどすと・・・
教授との面談後半年間は、医局長とメールのやり取りが続いた。
医局長が論文に赤ペン(メールなので、赤くはないが)いれたり、
ここんとこ文献読んでもっと詳しくとか、
追加のデータをだせ等、延々続いた。
初めに作った論文の原案はひと月もしないうちに、
ひとかけらの文字ものこらず次々と塗り替えられていった。
ただ、その間も当然仕事は普通にこなさなければならず、
最近は医療崩壊とやらで総合病院の勤務医の実態が
大分世間一般に知れ渡るようになったが、
全くその通りの過重労働のほかに、
延々と論文を修正、作成するのはかなりつらいものだった。
半年ほどたつとやっと教授へ提出。
教授ともなると偉いものだから、
毎回大学へ出向いて論文を手渡ししなければならない。
一週間ほどすると連絡があり、
また大学へ出向いて真っ赤になった論文原稿を受け取る。
で直して、医局長にメールで送り確認後、大学へ赴き提出、
一週間後受取・・・・を延々くりかえしていた。
それをまた半年ほど繰り返えしたころ、医局長から電話。
「おまえの論文、10日後の教授会で審査することになった。
ついてはそれまで病院のほうは休んで、こっちに通え。」
例によって院長には話が通じてあったが、
10日も休むとなると主治医になっている入院患者さんの引き継ぎや
外来、検査の代役の手配などなどいろいろやらねばならず、
おおあわてでこなした。
かみさんは、10日も休んでいいの?クビにならないの?
給料へらされる?と心配していた。
ちなみに給料はちゃんと、いつもどおりでた。
36 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:20:19 ID:v+bTUJfk
大学と同じ市内に実家があったので、そこから大学にかよった。
そのような条件になく勤務先も遠い人は、
ホテル住まいになる。もちろん100%自腹。
この10日間はおもに予行をやった。
実際の教授会審査では論文に対し4人の教授から
論文に対しいろいろな質問を浴びせられるのだが、それに対し想定質問をつくり
医局長や他の大学スタッフに教授役をやってもらい、自分が答えるというもの。
答えられなかったら次の予行までに調べ補強し、また繰り返す。
あらたな想定質問をつくり、予行する。
何回もやっているうちに、
自分がその分野の権威であるように思えてくる。
もちろん完全な錯覚。
審査会当日、緊張しまくっていたが
審査自体は難しい質問もなく、あっさり終わった。
帰り道、一年間の苦労が走馬灯のように頭をめぐった。
医局長に報告後、10日ぶりに家に帰った。
数日後医局長から電話あり、ぶじ合格とのことだった。
いままでに不合格者は二人いて、
そのとき内科系で非常に頑固な教授がおり、
ある外科医の論文をおとしたそうだ。
(4人の教授が全員合格としないと落ちる制度)
その次の審査会で、前回落ちた外科医の担当教授が、
頑固教授が指導した内科医を落としたらしい。
まあ、一言でいえば報復攻撃。
合格すると今度は4人の教授宅を訪問し、
名刺を渡し、お礼の挨拶をし、お礼の品(お菓子)を渡す。
昔はお金を渡していたそうだが、自分のときは禁止されていた。
37 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:21:00 ID:v+bTUJfk
博士になったからといって、
給料増えるわけでも出世するわけでもないが、いろんな人
(医局長、仕事かわってもらった同僚、
急に主治医交代となった患者さん、あとおまけに指導教授)
にお世話になり、迷惑をかけた分の重みは感じる。
長文失礼しました。
あと補足ですが、大学に教授が4人しかいないわけではなく
連番制で4人(臨床系2人うち一人は指導教授、基礎系2人)
選ばれるということです。
41 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:33:40 ID:8rVmXTAx
>後で聞くと湖とか森とかに関する詩であった
ここ、いいなあ。
しかし凄い大変なんだなー。
これクリアすると「医学博士」って肩書き持つ人のうち上級になる、
ということですよね?
それはやっぱり勤務していくうちでかなりの箔になるんでしょうか?
42 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 11:35:14 ID:Y1gkf7mV
長文乙だけど
そういう体験談みたいなのは普遍性もなさそうだし
文章力と学歴が必ずしも一致しないというのはよくわかったw
48 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 12:05:26 ID:v+bTUJfk
>>41
いや、逆ですよ。
グレードとしては論文博士<<<課程博士です。
ちなみにいまは開業医で、潰れそうに暇なので2chで暇つぶしです。
まあ博士は飯の種にはならない、という事例ですね。
50 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 12:30:13 ID:SgwS/Ehi
自分が別分野でみた論文博士さん達は
外部研究機関等に勤めていて仕事上に有利になるので
社会人と2足のわらじでDを取られる方が多かった印象。
でも32さんの突然呼ばれてってのがなかなか興味深いです。
教室運営でも成果が求められるからその辺との兼ね合いだろうか。
(院生何人とか学位何人とか教員・専攻の評価に関係するはず)
51 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 12:56:17 ID:AxTlO7Bh
なんかそういう経過で博士になった
女子プロレスラーのだんないなかったっけ?
本人が希望してないのに、呼び出して取らせるのは、
お金もらえないのに教授のほうにも何かメリットがあるんだろうか?
博士を何人輩出した…とか?ノルマとか?
それにしても、これで博士になれるって、
やっぱり日本は入試が最大の山場なんだろうね。
52 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 14:17:47 ID:v+bTUJfk
>>50さん>>51さん
ピンポンです。
ふだんから多少の、博士取れの指令はあるようですが
自分のときは、教授が学長選を控えており
それまでに博士をとっていなかった人間の大多数に号令が来たようです。
53 名前:おさかなくわえた名無しさん 2010/02/05(金) 15:41:04 ID:qZIwQpVj
医学部の論博はかなり特殊
ていうか他の分野でも論博はふつうにいる
しかしいずれもグレードは課程博よりずっと低い